3、7月のいろいろな人間たち
□旅の思い出#八戸入場
八戸駅に着くとひんやりと涼しい。ちょっと寒いぐらいかもしれないけれど、それは灼熱の上野を半袖で出発した東京人の準備不行き届きだろう。本八戸駅に向かうといよいよ真っ暗になってきた。駅中のキオスクは閉まっていて、財布の中に5円もない状況に焦り始める。ホテルにチェックインするためにどこかでお金を下ろさないといけない。ぼくは大体その日に使う金額分ぐらいしか下ろさないから、万単位でATMを使ったことは何かの振込みぐらいでしかない。でも、いまは2万円ほどは下ろさないと宿泊と明日からの旅行は楽しめないので、舗装されていない道を進み、コンビニを探す。最初にたどり着いたセブンイレブンに入るとあるのは古めのATM。これは問題だ。ぼくのキャッシュカードは何度新しくしてもチップの部分が擦り切れやすく、すこぶる読み取りが甘い。セブンの古いタイプのATMはもちろん、ゆうちょ銀行のATMでもほとんどが一回では反応しないのだ。たまに数回シャツの端や財布の皮の表面ですりすりと擦ってから入れると、7回に1回ぐらいは読み取ってくれるぐらい。だから、セブンの次に見つけたのがローソンだったのは幸運でした。いや見渡すと、八戸市内にはローソンばかりが目につきます。あとで調べてみると、どうもローソンは八戸出身の大農場主の方がアメリカの本社からの命で日本事業部を立ち上げたのが始まりのようです、というような情報は一切出てこず、単純に店舗数が多いだけのようでした。話を戻すと、なぜなのか分からないのですが、ぼくのキャッシュカードはローソンのATMだけは百発百中で読み取ってくれるのです。どういうことでしょう。ATMによって、そんなにチップの読み取り具合が変わるということは、コンビニごとに異なる水準でチップの読み取り方がされているのでしょうか。あるいは、単にぼくとローソンの関係が良好なだけなのか。いずれにしても、駅から市の中心部へと向かう闇のローソンに入り、ぼくは無事に1万円札を2枚手にすることができたのでした。ホッとして、お腹が空いてきたので、八戸名物でも食べたいところでしたが、ひとりでそういう地元名物のお食事処にすっと入るメンタルを持ち合わせていないので、いつも地方に来るとチェーン店に導かれてしまう。というわけで、ホテルの近くにあったなか卯で唐揚げ定食を注文。夏に近づくにつれて、内臓の疲労を感じていたのと、週明けに健康診断があるのでいまから健康を装う必要があったので、食べ切れるのか、食べきっていいのだろうか。心のシーソーゲームはゆらゆらと左右に揺れながら、健康を要する時にはカゴメのトマトジュースを飲むことで問題は解決すると信じているので、これからのトマトの効能に期待しつつ、最後の唐揚げを頬張り、ホテルにチェックイン。名前はふつうのホテルのようだけど、ちょっとオーナーにこだわりがあるのか、生餅がふたつお供え物のように部屋の机のうえに置かれていた。ウェルカムもちは初めてだ。ぼくは旅の荷物は最小限におさえたい性分なので、服は今日着てきた一式しかもってきてない。ホテル内の24時間のコインランドリーが空くのを待つ間、自宅にはないテレビを右目で流し見る。左目はいつも疲れている。あ、トマトジュースを買わないと。
(この文章のなかにひとつ嘘があります。)
この記事は無料で続きを読めます
- □鑑賞#八戸市美術館その1
- □佐藤拓実の周縁の美術#2絵馬はどこにあるのか?
- □上田哲也のドイツ今日この頃#2カッセル
- □スーパーミラクル上智生の長すぎる自己紹介#2現実-虚構への旅行
- □鈴木萌夏の「新宿少年アート」しようよ
- □情報
- おわりに
すでに登録された方はこちら